固定残業代の支給と時間外手当の請求

 X社では、従業員の給与について、残業時間の管理・計算の煩雑さを避けるため、固定残業代として10万円を一律支給し、合計35万円の給与を支給していましたが、以前退職した従業員から、固定残業代では不足する時間外手当が未払であるとして、時間外手当の請求がなされました。確かに、残業時間と時間外手当の金額をきちんと計算すると、固定残業代の10万円では不足していることが判明しました。
 X社は、この従業員からの請求に応じなければならないのでしょうか?

  1.  労働基準法では、従業員を法定労働時間を超える時間外労働に従事させる場合には、三六協定を締結し、労働基準監督署に届出を行ったうえで、時間外労働に対して、2割5分増以上の割増賃金を支払う必要があります(労働基準法37条1項)。
  2.  もっとも、労働基準法所定の割増賃金に代えて、一定額の手当(固定残業代)を支払うことも、労働基準法所定の計算による割増賃金の額を下回らない限り、適法と解されています。言い換えると、固定残業代の支払は、労働基準法所定の計算による割増賃金の額を下回らない限度において適法となるものなので、労働基準法に従って計算した時間外手当の金額が、固定残業代としての支給額を上回っている場合には、この差額分については、会社に支払義務が発生します。
       したがって、本件でも、X社は、従業員からの時間外手当の請求に応じなければなりません。
  3.  また、固定残業代としての10万円の支給分が割増賃金に充当されるようにするためには、割増賃金として、労働基準法所定の金額が支払われているか否かを判定できるよう、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができること(判別要件)が必要となります(最判昭和63年7月14日労判523号6頁)。
       この判別要件を満たさないと、時間外手当を支払ったとは認められないため、注意が必要です。
  4.  たとえば、X社において、基本給が25万円、固定残業手当等の名目で10万円の支給がなされているのであれば、時間外手当の計算においては、10万円を時間外手当の金額から控除することができます。
     他方、X社において、このような支給名目の区別がなく、一律、基本給として35万円の支給がなされている場合には、たとえ、X社において、10万円は固定残業代としての支払と考えていたとしても、判別要件を満たさず、10万円を時間外手当に充当することはできません。