家事従事者と逸失利益
私は、平成27年2月に起きた交通事故による受傷が原因で、外傷性の椎間板ヘルニアを発症してしまい、平成29年2月に症状固定となり、後遺障害等級12級と認定されました。なお、私の事故当時の年齢は60歳です。
私は、専業主婦で、会社で働いているわけではないですが、現在も、椎間板ヘルニアの影響で、腰・足に痛みやしびれがあり、日常生活や家事労働に支障をきたしています。
専業主婦であっても、後遺障害による逸失利益の損害賠償は認められるのでしょうか?私が一人暮らしの独居者である場合はどうでしょうか?
- 逸失利益の算定の基礎となる基礎収入は、事故前の現実の収入額を基礎とします。専業主婦であっても、家事労働は、財産上の利益を生じるものであり、金銭的に評価できるとするのが判例(最判昭和49年7月19日民集28巻5号872頁)の考え方です。
- そのため、専業主婦であっても、後遺症による逸失利益の損害賠償は認められます。実務上は、賃金センサスの女子の学歴計・全年齢平均賃金を基礎収入として、逸失利益の損害賠償が認められます。
- 具体的には、例えば、平成27年度の賃金センサスにおける女子の学歴計・全年齢平均賃金での60歳の年収額は309万4900円であることから、この年収額を基礎収入として、逸失利益の金額を計算することとなります。
- 後遺障害等級12級の原則的な労働能力喪失率は14%であり、労働能力喪失期間の始期は症状固定時(62歳)、労働能力喪失期間の終期は原則として67歳であることから、基礎収入309万4900円に労働能力喪失率14%を乗じ、さらに、労働能力喪失期間5年に対応したライプニッツ係数4.3295を乗じた187万5911円(=309万4900円×0.14×4.3295)が本件での後遺障害逸失利益の目安の金額となります。
- なお、本件のような逸失利益の損害賠償の計算においては、将来受け取るべき金銭を前倒しで受け取るために得られた利益(中間利息といいます。)を損害額から控除する必要があり、この中間利息を控除するために使う指数がライプニッツ係数となります。
- ライプニッツ係数は、民事法定利率が年5%であることから(民法404条)、差し引かれる運用益は、年5%で計算されています。ただし、2020年4月1日に改正民法が施行されると、施行時の民事法定利率は年3%となり、その後も、市場動向により変更されることとなっています。
- そのため、2020年4月1日以降は、裁判実務で用いられるライプニッツ係数も変更されるものと思われます。
- 他方、専業主婦であっても、独居者(一人暮らし)であり、他人のために家事労働を行う者でない場合には、原則として逸失利益の損害賠償は認められません。これは、家事従事者とは、他人のために家事労働を行う者のことを指し、自己のための家事労働は、金銭的に評価できないものと考えられているためです。
ただし、具体的事情により、後遺障害により、日常生活等への支障が大きい場合には、逸失利益の損害賠償は認められなくても、後遺障害慰謝料の増額事由として考慮されることもあります。