退職金差額の損害賠償
私は、50歳の夫Aを交通事故で亡くしました。夫Aの両親は死亡しており、私達夫婦に子供もいなかったので、私がAの唯一の相続人です。
Aは退職金制度があるX社に勤務しており、私はAが死亡したことで、X社から一定の退職金は受領しましたが、Aが後10年間勤務を継続して60歳の定年まで勤めていれば、より高額な退職金を受領できた可能性があります。このような将来得られたであろう退職金と実際に受け取った退職金との差額(退職金差額)の損害賠償請求は認められるでしょうか?
- 本件のような定年まで勤務した場合に得られたであろう退職金と既に受け取った退職金との差額は、一般に、「退職金差額」と言われる問題となります。この退職金差額については、判例上、被害者が定年退職時まで勤務を継続する蓋然性と、定年退職時に退職金が支給される蓋然性があれば、損害として認められるものと考えられています(最判昭和43年8月27日民集22巻8号1704頁)。
- 定年退職時まで勤務を継続する蓋然性と定年退職時に退職金が支給される蓋然性があるか否かは、事実認定の問題なので、裁判例においては、退職金差額が認められた事例もあれば、認められなかった事例もあり、判断が分かれています。
- 本件でも、例えば、夫Aが長年にわたってX社での勤務を継続し、同社で比較的重要な職務を任されており、転職予定がないといった事情があれば、定年退職時まで勤務を継続する蓋然性が認められるものと考えます。また、X社が一部上場の大手企業であり、退職金規程が定められている等の事情があれば、退職金が支給される蓋然性も認められることから、退職金差額が損害として認められるものと考えます。
- 反対に、例えば、夫Aが過去にも頻繁に転職を繰り返しており、X社にも転職により入社したばかりで勤続年数が短く、また、X社が中小の零細企業で退職金規程が整備されておらず、退職金の支給が社長の判断によるといった場合には、定年退職時まで勤務を継続する蓋然性も、定年退職時に退職金が支給される蓋然性も認められず、退職金差額は損害とは認められないものと考えます。