新型コロナウイルス関連の緊急事態宣言と賃料の不払いへの対応
テナントが、新型コロナウイルス関連の緊急事態宣言による営業自粛要請を受け、売り上げが立たなくなったので、賃料が支払えないとの連絡があり、既に2ヶ月分の賃料が支払われていません。賃貸借契約書には、2ヶ月分の賃料を滞納した場合は、相当の期間を定めて催告しても滞納賃料が支払われないときは契約を解除できると定められています。
賃貸借契約書の定めにしたがって解除して明渡を求めるべきでしょうか。なお、借主は、これまで賃料を滞納したことはありませんでした。
- 2ヶ月ないし3ヶ月分程度の賃料の滞納があったとしても、賃貸借契約の解除が認められない可能性もあり、慎重に判断する必要があります。
- 通常時であれば、3ヶ月分の賃料が滞納され、貸主が相当な期間を定めて催告しても、なお支払われない場合には、裁判例においても、賃料不払い(債務不履行)を理由とする賃貸借契約の解除が認められ、建物の明渡を求めることができました。
- しかし、緊急事態宣言によって営業自粛要請が出た業種のテナントについては、借主の責めに帰すことのできない事情によって、売り上げがなくなり、賃料を支払うことができない状況になったことや、営業自粛が、新型コロナウイルスの感染拡大の防止のため、つまり、国民の健康・安全保持に寄与するための行為であること等から、3ヶ月分程度の賃料の不払いが生じたとしても、貸主・借主間の信頼関係を破壊するに至るとは言えない特段の事情があると裁判所は考えて、解除を認めない可能性があります。
- 法務省民事局も、「日本の民法の解釈では、賃料不払を理由に賃貸借契約を解除するには,賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されて いることが必要です。最終的には事案ごとの判断となりますが,新型コロナウイルスの影響により3カ月程度の賃料不払が生じても、不払の前後の状況等を踏まえ、信頼関係は破壊されておらず、契約解除(立ち退き請求)が認 められないケースも多いと考えられます。」との見解を示しています。
- また、現実問題として、現時点で賃貸借契約を解除したとしても、新たに同等の賃料を支払うことができるテナントをすぐに見つけて入居させることは困難ですし、借主を退去させるために裁判手続を執る必要があったとしても、緊急事態宣言継続中は、裁判所もすぐに裁判期日を指定できる状況にありません。
- そこで、貸主としては、これらの状況を冷静に検討し、賃料の支払を猶予したり、一定期間について支払義務の一部を免除する等、借主の事業継続を支援する方向での対応を検討した方がよい場合もあるものと考えます。
- なお、政府は、賃料の減免要請に応じた貸主に対して、賃料収入減少の程度に応じて固定資産税を減免したり、減免額を損金算入可能にしたりする税務上の優遇措置を講じているほか、家賃収入の減少に対しての一部補償を行う等の取り組みを検討しておりますので、これら情報も注視する必要があります。
- また、テナントは、減収によって賃料が払えない場合に、国から給付金を受けたり、実質無利子の融資を受けられる等の制度があり、これらの制度をテナントに利用してもらって賃料の支払を受けるという方法もあります。
(厚生労働省HP https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000624607.pdf)