営業自粛要請と賃料の当然減額の主張の可否

 新型コロナウイルスの感染拡大により、緊急事態宣言が発令され、私が借りている店舗(飲食店)での売り上げが通常営業時よりも60%減少してしまいました。
 そのため、これまで支払ってきた月20万円(消費税別)の家賃を支払うことができません。この状況は、未曾有の国難であり、一種の災害と言えるので、貸主に対して、賃料の減額を主張できないのでしょうか?

  1. 賃料を当然に減額できると考えることは早計です。
  2. 売り上げが減少して家賃が支払えない場合には、国や地方自治体の補助金・協力金の給付を受けたり、実質的に無利子の融資を受ける等の支援を受けることができる場合があり、売り上げの減少があったとして、直ちに賃料の支払が不可能であると言えるとは限りません。これらの補助・支援を得て支払う努力をしたほうがよいと考えます。
  3. これらの努力をしても、なお賃料支払の目処が立たない場合には、貸主に事情を説明して、賃料の支払猶予や、一部支払義務の免除を受けることを了承してもらい、合意書を締結することによって解決した方がよいでしょう。なお、上記補助金申請等の事務処理に時間を要することを想定して、一定期間の賃料支払を猶予し、補助金等を受けられれば支払い、受けられなければ再度猶予や賃料の減免について協議を行うといった対応もあり得ます。
  4. 民法では、災害によって建物の一部が滅失したり、設備が故障したりして、建物が使用できなくなった場合には、賃料は当然に減額されることが定められています(民法611条)。今回のように、新型コロナウイルスの感染拡大により緊急事態宣言を受けた場合も災害の一種のようなものといえ、借主の責めに帰すことのできない事由によって、実質的に建物が店舗として使用できない状況になっていることに照らせば、民法611条の適用ないし類推適用によって、賃料の減額が認められる余地もあるのではないかと考えます。
  5. しかし、このような問題について判断した裁判例は見当たらず、現時点で、借主が当然に賃料の一部又は全部についての支払義務を免れるものとして賃料の支払いをストップすることは債務不履行責任を問われるリスクが大きく、また、将来にわたっての貸主との関係悪化を招く恐れもあるため、お勧めできません。
  6. したがって、上記のとおり、補助金や支援を受けて支払ったり、できる限り貸主・借主間で当面の対応について賃料の支払猶予や一部免除等の合意書を取り交わしたりすることでの解決を目指すべきと考えます。

 

  1. 民法第611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)
    1 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
    2 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。