賃貸人の破産と敷金返還請求権の扱い
当社は、現在本社ビルとして使用している建物について、貸主であるX社との間で、月額20万円の賃料で賃貸借契約を締結し、敷金120万円をX社に預け入れています。ところが、X社について破産手続が開始し、破産管財人から当社に対して賃料の請求がなされるようになりました。
当社が預け入れている敷金返還請求権は、破産手続において、どのように扱われるのでしょうか?
- 破産手続開始前の原因によって生じた財産上の請求権を破産債権といい、破産債権者は、破産手続において債権届出をすることで、配当に参加することができます。
- 敷金返還請求権は、賃貸借契約が終了し、賃貸目的物(建物)を明け渡すことを停止条件として発生する請求権ですが、このように破産債権が停止条件付き債権の場合であっても、破産手続に参加することが可能となります(破産法103条4項)。
- しかし、あくまでも賃貸借契約が終了して建物を明け渡さないと、敷金返還請求権は発生しないため、破産手続において、最後配当の除斥期間が満了するまでに、賃貸借契約が終了して建物の明渡が完了しないと、当社はX社の破産手続において配当を受けることはできません(破産法198条2項)。
- もっとも、実務上、X社の破産管財人は破産手続の中でX社が所有する建物を任意売却することが多く、破産手続の中で建物の任意売却が行われ、所有権が新所有者に移転すれば、所有権の移転に伴って賃貸人の地位も新所有者に当然に移転することとなります。この場合には、敷金返還債務も新所有者に当然に承継されるため、当社の敷金返還請求権は、新所有者に対して行使できるという点で、保護されることとなります。
- また、当社として、破産手続が終了する前に、本社ビルの移転等により当該建物を明け渡す可能性があるのであれば、破産管財人に対して賃料を支払う際に、敷金返還請求権の限度で弁済額の寄託の請求(計算上、破産財団の中で分別しておくよう請求すること)を行っておくべきです(破産法70条後段)。
この寄託請求を行っておけば、最後配当の除斥期間が満了する前に賃貸借契約が終了し、明渡が完了した場合に、預け入れている敷金に未払賃料等が当然に充当されることとなります。そのため、当社は相殺の手続を取ることなく、寄託していた賃料相当額の返還を受けることによって、事実上、敷金返還請求権を保全することができます。