住宅資金特別条項の活用

 私は、中小企業に勤めるサラリーマンです。住宅ローンを組んで20年前に自宅を購入しています。5年前に母がガンになり、多額の医療費がかかったため、これまでの貯金を取り崩して母の医療費に充て、足りない分は、カード会社複数社から借金をして医療費に充てていたところ、借金の金額が800万円に膨らんでしまいました。
 私の年収は500万円程度ですが、カード会社の利息負担も大きく、家族の生活費もあるため、とてもこれだけの借金を今後の収入から返せる見込みはありません。自己破産をすると、自宅も手放さなければならなくなってしまうため、何とかそれだけは避けたいと考えています。何か良い方法はないでしょうか。

  1.  相談者の方で、自宅を残したいという希望があるのであれば、個人再生の申立を行うという方法があります。

  2.  個人再生では、再生計画(弁済計画)に、「住宅資金特別条項」を定めることができ、住宅資金特別条項を定めた場合には、住宅ローン融資時に定められた返済計画を修正して、再生債務者が住宅ローンの返済を続けることが可能となります。これにより、住宅ローン以外の債務について整理をしながら住宅ローンの返済を続けること、生活の基盤である住宅を確保することが可能となります。

  3.  負債総額が住宅ローンを除いて5000万円以下である場合の個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生の二種類があります。

    1) 小規模個人再生は、将来継続的に収入を得る見込みのある債務者で、その収入を弁済原資として、再生債権を原則3年で分割弁済をすることを内容とする再生計画案を作成し、債権者の半数以上及び債権額の過半数を有する債権者が不同意の意見を出さない限り、再生計画案が裁判所に認可され、これを履行することで残債務を免除することを内容とする手続です。

    2) これに対し、給与所得者等再生は、小規模個人再生の対象者のうち、サラリーマン等、将来の収入を確実かつ容易に把握できる者を対象とする手続であり、再生債務者の可処分所得の2年分以上の額を弁済原資に充てることを条件として、再生計画の成立に必要な債権者の決議を省略するものです。つまり、債権者の同意が無くても、法律上の要件を満たすことで再生計画案が認可されます。

  4.  ただ、給与所得者再生は、債権者の意見に左右されることなく、再生計画案が認可されるという利点がありますが、小規模個人再生と比べて弁済額が高くなり、債務者の負担が大きくなるというデメリットがあります。

  5.  また、小規模個人再生であっても、合理的な再生計画案である限り、金融機関等の債権者は再生計画案に不同意の意見を出すことはあまりなく、再生計画案が可決され、認可される例が多いと言えます。

  6.  そのため、実務上は、給与所得等再生よりも、小規模個人再生が利用されています。