遺言無効と遺留分減殺請求の関係
父が死亡した後、父が作成した自筆の遺言を確認したところ、全財産を私の兄である長男Aに相続させる内容が記載されていました。このことを知ったAからは、全ての財産の権利を主張されています。父がこの遺言を作成した時には既に認知症に罹患しており、私はこの遺言が無効ではないかと考えています。
現在、父の遺言の内容を知ってから9ヶ月が経過しており、遺留分減殺の期限が近づいています。遺留分減殺請求をすると、遺言の効力を認めることになるのではないかと心配です。
私は、遺言そのものの効力は争いたいのですが、このまま遺留分減殺請求をしないでもよいのでしょうか?
- 遺留分減殺請求を行使すべきです。
- 具体的な方法としては、長男Aに対し、「父の遺言は遺言能力なく作成されたものであるため無効である。また、たとえ有効であるとしても、私の遺留分を侵害するものであるので、遺留分減殺請求権を行使する。」旨の通知を行うべきです。
- そもそも、遺留分減殺請求権は、行使期間の制限があり、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以内に行使しなければなりません(民法1042条)。
そのため、遺留分減殺請求権を行使せずに、遺言無効の訴訟をしている間に遺言が示されてから1年が経過してしまえば、遺留分減殺請求権を行使できなくなってしまいます。 - 例外的な場合として、最判昭和57・11・12(民集36巻11号2193頁)では、「被相続人の財産のほとんど全部が贈与されていて遺留分権利者が右事実を認識しているという場合」でも「無効の主張について、一応、事実上及び法律上の根拠があって、遺留分権利者が右無効を信じているため遺留分減殺請求権を行使しなかったことがもっともと首肯しうる特段の事情が認められ」る場合には、遺留分減殺請求の期間制限の起算がされないという判断をしています。
すなわち、遺留分を侵害する遺言について、遺言無効の訴訟を提起している間は、当該無効の主張が一応根拠があり、無効であると信じるのが相当である場合であれば、遺留分減殺請求の期間制限の起算がされないということです。 - しかし、これはあくまで例外的な場合について判示したに過ぎず、遺言無効訴訟の後で、遺留分減殺請求を行使したときに、当該無効の主張が一応根拠があり、無効であると信じるのが相当であると判断されない可能性があり、その場合には、遺留分すらも確保できない事態が生じ得ます。
- そこで、上記のような対応をお勧めします。