建物の明渡し

  1.  老朽化した一軒家を普通借家契約で賃貸しています。
  2.  建て替えのために入居者には退去してもらいたいと考えており、入居者とは2年後に出て行ってもらうことで話がまとまっています。
  3.  「2年後に契約を終了させる。」といった合意書を取り交わせば間違いなく2年後に出ていってもらえるでしょうか?

 

  1.  期限付合意解約による処理の問題点
    1.  ご相談のように「2年後に契約を終了させる。」というような合意を、期限付合意解約といいます。
    2.  借地借家法では、普通借家契約が合意更新されない場合には法定更新されるのが原則です。
         賃貸人が法定更新を阻止したい場合には、期間満了の1年前から6か月前までの間に更新拒絶の通知をしなければならず(借地借家法26条1項)、しかも更新を拒絶する正当な事由が必要とされています(同法28条)。
    3.  そして、借地借家法は、以上のような定めに反する特約で、借家人に不利な特約は無効になることを定め、借家人を厚く保護しています。
    4.  「2年後に契約を終了させる。」という合意は、期限の到来により借家契約が当然に終了することを定めたものですが、法定更新の途を閉ざすものであり借家人に不利な特約ですので、原則として無効になると解されます。
    5.  最高裁(最判昭和44年5月20日民集23巻6号974頁)は、例外的に、「解約の意思を有していると認めるに足りる合理的客観的事由」があり「他に合意を不当とする事情がない」場合に、期限付合意解約の有効性を認めていますが、最高裁が指摘するような事由・事情は賃貸人側で立証しなければなりません。
    6.  期限付合意解約にはこのようなリスクがありますので、「2年後に契約を終了させる。」といった合意をすることは適当ではありません。
         実務的には以下のように、定期借家契約へ切り替える方法、又は即時合意解約する方法を採るのがよいと考えます。
  2.  定期借家契約へ切り替える方法
    1.  借地借家法の定める定期借家契約(借地借家法第38条以下)は契約の更新がなく、期間の満了により当然に契約が終了します。
    2.  そのため、普通借家契約を合意解約した上で直ちに定期借家契約を締結する方法が考えられます。
    3.  定期借家契約を有効に締結するには、契約締結前に、契約書とは別に、契約の更新がなく期間の満了により終了することを記載した書面を用いて口頭で説明しなければならない(借地借家法第第38条2項)といった手続が必要です。上記事前説明を欠くと定期借家契約は成立せず、普通借家契約となってしまいます。
          また、期間が1年以上の定期借家契約では、期間の満了に終了させるためには、期間満了の1年前から6か月前までの間に、借家人に対して期間の満了により終了する旨を通知しなければならず、それまでにできなかった場合には、実際に通知をした日から6か月経過して初めて終了します(同条4項)。
    4.  なお、平成12年3月1日前になされた居住用建物の賃貸借契約については、上記のような形で定期借家契約に切り替えることはできませんので注意が必要です(附則(平成11年12月15日法律第153号)第3条) 
  3.  即時合意解約する方法
    1.  合意したその日に普通借家契約を解約するが、2年後の明渡期限まで明渡しを猶予するという合意をする方法が考えられます。
    2.  この場合には、「賃料」にかわる「賃料相当損害金」を負担してもらう特約や、2年後の明渡期限までに明け渡さなかった場合の違約金(明渡期限の翌日以降は賃料相当損害金を賃料の倍額と定めるケースが見受けられます。)等を定めることになります。
    3.  賃貸人にとっては、定期借家契約への切り替えよりも、即時合意解約する方法の方が、容易な方法であると思われます。
    4.  なお、明渡期限を経過しても任意に建物の明渡しがなされない場合には、建物明渡請求訴訟を提起して明渡しを命じる確定判決を得て、強制執行するのが通常です。
         ただ、簡易裁判所での即決和解という制度を用いて合意すれば、建物明渡請求訴訟を提起せずに強制執行することも可能ですので、このような制度を利用することも併せて検討することになります。