競売物件の使用借人への対応

 弊社は不動産業を営んでおり、この度安価で不動産を取得するために、競売にかけられている工場建物と敷地となっている土地について、競落したいと考えています。
   この物件の物件明細書等を確認したところ、占有者がおり、債務者兼所有者との間では使用貸借契約を締結し、建物に付属する大型の機械設備を所有しているという記載がありました。

  1.  弊社としては、競落後、建物を工場として賃貸したいと考えていますが、この機械を撤去させるにはどのような方法を採ったらよいですか?
  2.  賃借する業種によっては、機械設備をそのまま使える可能性もあるため、この占有者には設備を撤去しないで出て行ってもらうことも考えておりますが、どのように対処したらよいでしょうか?

 

  1.  競売物件に占有者がいる場合、この占有が物件の競落人に対抗できない権原に基づくものである場合には、競落人は引渡命令を申し立てて、強制執行によって競落物件の引渡を受けることができます(民事執行法83条1項)。
  2.  引渡命令とは、裁判所が物件の債務者または占有者に対し、物件を競落人に引き渡すよう命じるものであり、引渡命令が確定すれば判決と同様、明け渡しの強制執行をすることができます。
       引渡命令を申し立てれば、通常の明渡請求訴訟とは異なり、互いの主張のやり取りを経ずに、裁判所は要件を満たす限り命令を出してくれます。そのため、競落から3ヶ月程度で競落物件を明け渡させることは可能です。
       ただし、引渡命令は、競落代金を納付してから6ヶ月以内に申立をする必要があります(民事執行法83条2項)。
  3.  使用借権は、物件の所有権が移転した場合には、新所有者には対抗できなくなります。そのため、競落さえできれば、占有者は使用借権を競落人に対抗できないことになり、引渡命令によって引渡を強制執行できます。
  4.  ただ、現実に、明け渡しにあたって、問題なく機械設備を取り外すことができるのか、たとえば、適切な電気工事ができるのかという点については、実際に内部を確認しなければわかりません。
       また、取り外しにどの程度の費用がかかるかも、業者に機械設備の状況を確認してもらい、見積を貰わないとわからないところです。
       そのため、競落にあたっては、これらの不確定な費用がかかることも覚悟して入札をする必要があります。
  5.  また、内部の動産をそのままの状態で取得する方法としては、引渡命令に基づく建物明渡の強制執行の際に、執行官から買い取るという方法が考えられますが(民事執行法168条6項後段)、この場合の目的外動産の売却手続は動産執行の手続等によって行われることとなるので、確実に買い取ることができるとはいえません。
  6.  そのため、現実的には、競落の前後から占有者と交渉を行い、任意に売却してもらう方法を採ることになります。ただし、占有者は機械設備を撤去する義務はあっても、競落人に売却する義務はないため、あくまで任意の交渉となります。