相続人のいない(または不明な)場合の建物賃貸借契約の解除と動産の処理
アパートの借主が死亡しました。借主には相続人がいましたが、借主に借金があることから、借主の相続人全員が相続放棄をしてしまいました。居室内には、まだ借主の私物が残ったままの状態です。相続人が誰もいなくなったわけですから、貸主の判断で建物賃貸借契約を解除して、居室内の動産を処分してしまっても構わないでしょうか?
- 結論として、貸主の判断で建物賃貸借契約を解除したり、居室内の動産を処分することはできません。もしこのような行為を行えば、違法行為として民事上の責任を負うだけでなく、器物損壊罪等の刑事上の責任が生ずる可能性もあります。
- 本件のように借主が死亡したものの相続人全員が相続放棄をして相続人がいなくなった場合や、相続調査をしても相続人が不明の場合は、借主が有していた借家権や、居室内の私物などの財産は、相続財産法人となって管理・清算されていくことになります。
- 相続財産法人を管理・清算するのは相続財産管理人ですが、相続財産管理人は当然に選任されるものではなく、被相続人の債権者などの利害関係人や検察官が家庭裁判所に選任の申立をしてはじめて、相続財産管理人が選任されることになります。
- したがって、死亡した借主との建物賃貸借契約を解約し、動産を処分するためには、相続財産管理人の選任を裁判所に申し立て、選任された相続財産管理人と合意をする必要があります。
- なお、貸主から、連帯保証人に「何かあっても連帯保証人である自分が責任を引き受ける。」といった趣旨の書面を差し入れてもらえば問題ないのではないか、といった相談を受けることがあります。しかし、このような書面による合意は、貸主と連帯保証人の間の合意に過ぎず、上記の民事上・刑事上の責任が無くなるわけではありません。