宅建業者に対する個人情報の削除要請への対応

 当社は、宅建業者として賃貸の仲介業務を多数行っています。当社は、仲介したお客様については、お客様の同意を得たうえで個人情報を取得しています。今回、12年前に仲介を行ったお客様から、仲介した賃貸物件から退去するので、自分の個人情報を消して欲しいと依頼されました。しかし、業務上は個人情報を保持しておく必要があるので、この要請に応じることはできません。個人情報を削除しないと、個人情報保護法に違反するのでしょうか?

  1.  個人情報を全て削除できなくても、違法ではありません。
  2.  個人情報保護法上、保有している個人情報を消去しなければならないのは、
    1.  利用目的の範囲を超えた取扱いが行われている場合(同法16条違反)
    2.  不正の手段による個人情報の取得である場合(同法17条違反)
    3.  第三者提供の制限に反した場合(同法23条違反)

      のみです(同法27条)。 

  3.  平成29年5月から施行された改正個人情報保護法では、利用する必要がなくなった個人情報を消去する努力義務が定められましたが、あくまで努力義務であり、必ず個人情報を削除しなければならないというわけではありません(同法19条)。
  4.  個人情報の消去が努力義務に留められたのは、事業者が個人情報を利用する目的や方法は多岐にわたるため、消去すべきか否か、消去すべき時期がいつかという点を一律に規制することは困難であるとの意見があったからです。
  5.  しかし、利用目的が達成された後も、事業者が必要なく個人情報を保有していると、情報漏洩の危険が残るため、努力義務の趣旨にしたがって、今後、その個人情報を保持する必要がなくなったのであれば削除するのが望ましいと考えます。
  6.  業務上、個人情報を保持しておく必要があるのであれば、無用な紛争を避けるために、プライバーポリシー等で個人情報を全て削除することに応じられない旨を規定しておくべきです。
  7.  なお、本件は12年前の賃貸仲介に関する個人情報であるため問題とはなりませんが、宅建業者は、その取引に関する帳簿を5年間(売買については10年)保存する義務があります(宅建業法49条)。したがって、たとえ依頼があったとしても、宅建業法に違反して個人情報を削除するような行為はできませんので、この点は注意が必要です。