自筆証書遺言保管制度の創設
- 相続法の改正に伴い、自筆証書遺言の保管制度が創設されると聞きましたが、これはどのような制度でしょうか?
- 自筆証書遺言の保管制度を利用すると、どのような利点があるのでしょうか?
- 相続に関する民法改正と併せて、平成30年7月6日に「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立し、法務局において自筆証書遺言を保管する制度が創設されました。
- 現行民法下では、遺言者が自筆で記載した自筆証書遺言を第三者が保管することは法制度として整備されておらず、多くの自筆証書遺言は、遺言者の自宅で保管されていました。
- しかし、自筆証書遺言が自宅で保管されると、遺言書が紛失したり、遺言者の死亡時に相続人が遺言書を発見できなかったために、相続人間で遺言書がないものとして遺産分割協議が行われ、後に遺言書が発見されて、遺産分割協議が無駄になるおそれがあるとの問題点が指摘されていました。
- また、遺言書を相続人が発見した場合であっても、これによって不利益を受ける相続人が遺言書を廃棄したり、隠匿したり、改ざんをする等して、相続をめぐる紛争が生じるおそれがあるとの指摘もなされていました。
- そのため、高齢化の進展等の社会経済情勢の変化に鑑み、相続をめぐる紛争を防止するため、法務局において自筆証書遺言を保管する制度が設けられることになりました。
- 自筆証書遺言保管制度の概要は、以下のとおりです。
- 保管申請の対象となるのは、民法第968条の自筆証書遺言に係る遺言書のみです。また、封印されている遺言書は、後に説明する画像データとして保管することができないため、この制度の対象になりません。
- 遺言書の保管に関する事務は、法務局において、「遺言書保管官」として指定された法務事務官が取り扱います。
- 遺言者は、自筆証書遺言の保管申請を、遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局の遺言書保管官に対して行います。また、保管の申請の際には、遺言者が自ら出頭して行う必要があり、遺言書保管官は、申請人の本人確認を行います。
- 保管の申請がされた自筆証書遺言は、遺言書保管官が法務局の施設内で原本を保管するとともに、遺言書の画像データや本人特定に係るデータを管理します。
- 遺言者が死亡した場合、相続人・受遺者等は、自らが相続人、受遺者等となっている自筆証書遺言が法務局に保管されているかどうかを証明した書面の交付を請求することができ、また、遺言書の画像データを用いた証明書(遺言書情報証明書)の交付請求や遺言書原本の閲覧請求をすることもできます。
ただし、遺言者の生存中は、遺言者以外の者は、遺言書の閲覧等を行うことはできません。
- 自筆証書遺言の保管制度を利用すると、当該遺言書については、検認手続は不要となります。改正前民法では、自筆証書遺言による登記等を行うためには家庭裁判所による検認手続が必要となります。検認手続では、遺言書の現状の記録、発見時の状況の聴取、保管状況の聴取等が行われますが、自筆証書遺言の保管制度を利用した場合には、上記の事項は保管申請によって明らかであるため、改めて相続人らに対して遺言書の検認を義務づける必要がないためです。
- 上記から、自筆証書遺言の保管制度を利用した場合には、被相続人の死後に、自筆証書遺言の有無を早期かつ確実に確認でき、遺言書を破棄されたり改ざんされたりすることがないというメリットがあります。また、相続人の側で検認手続を省略できるということもメリットとなります。
たとえば、特定財産承継遺言を自筆証書遺言の方式で作成した場合、当該遺言に基づいて不動産の登記をするには、検認が必要でしたが、保管制度を利用すれば、検認手続を経ることなく、登記を行うことが可能となります。 - なお、この「法務局における遺言書の保管等に関する法律」は、2020年7月10日に施行されることが決まっており、施行日以後にならないと、遺言者は自筆証書遺言の保管制度を申請することができません。