更新契約書に個人の連帯保証人が署名・押印することの問題点
建物のオーナーから賃貸管理業務を受託している当社は、これまで、テナントとの賃貸借契約を更新する際に、個人の連帯保証人に対して、更新契約書に連帯保証人として署名・押印するよう求めてきました。
数年前から続いている普通借家契約が、2020年4月1日以降に更新時期を迎える場合に、これまでと同様に、更新契約書について、個人の連帯保証人に署名・押印させてよいのでしょうか?
- 更新後の契約から生じる借主の債務一切について、引き続き連帯保証人に責任を負担して欲しいのであれば、更新契約書には個人の連帯保証人に署名・押印させるべきではありません。同様に、更新時に、改めて連帯保証人から連帯保証の承諾書や確約書を取得することもやめた方がよいでしょう。
- 法務省の立法担当者の見解によれば、2020年4月1日より前に成立した契約について、2020年4月1日以降に合意更新された場合は、更新後の契約には改正民法が適用されます。
- この見解を前提とすると、貸主と連帯保証人との間の連帯保証契約についても、合意で更新された場合には、更新後の連帯保証契約について、改正後の民法が適用されることになります。その結果、個人の連帯保証人については、責任限度額である極度額を定めなければ、連帯保証契約が無効とされてしまいます。
- 本来、普通借家契約の連帯保証人との責任は、特に、連帯保証人との間で更新の合意をしなくても、当然に更新後の契約についても責任が継続するものと考えられています。これは、もともと期間の定めのある普通借家契約は、更新されることによって、それなりに長期間継続することが予定されている契約であるから、特別な事情がない限り、連帯保証人も更新後の契約について連帯保証する意思をもって保証契約を締結したものと考えられるからです(最判H9.11.13判時1633-81)。
- この最高裁判例の考え方は、改正民法施行後も変更されません。つまり、改正民法施行前に普通借家契約について連帯保証した個人の連帯保証人については、改正民法施行後に普通借家契約が更新された場合でも、その後の契約について原則として連帯保証人の責任が及ぶのです。
- したがって、法律上は、普通借家契約の更新の際に、連帯保証人に更新契約書や連帯保証の承諾書に署名・押印させる必要はありません。
- しかし、賃貸実務では、連帯保証人に責任が継続していることを自覚してもらうために、これらの書類に署名・押印を求める慣行がありました。
- 今後は、本設例のように、賃貸借契約の更新の際に、連帯保証人との間で、更新契約書等の書面を取り交わしてしまうと、「連帯保証契約が更新された」のではないかとの疑義が生じ、個人の連帯保証人の極度額を設定する必要が生じたり、事業用の賃貸借の場合は、借主が連帯保証人に対して自己の財務状況を説明しなければならない等の問題が生じてしまいます。
- 以上の事情を踏まえ、2020年4月1日より前に締結された普通借家契約を改正民法施行後に更新する際は、以下のように対応すべきです。このように対応することで、更新前に連帯保証した個人の保証人に、これまでどおり、極度額による制限がない連帯保証債務を負担してもらうことができます。
- 連帯保証人には、更新契約書や連帯保証の承諾書に署名押印させない。
- 更新時に書面作成する場合は、貸主・借主間でのみ更新契約書・更新合意書を取り交わす。
- 更新後に、連帯保証人に対して、後記文例のように、貸主・借主間で普通借家契約が更新されたこと、更新後も引き続き連帯保証人としての責任が継続することを手紙等の文書で通知する。
【通知文例】
下記建物賃貸借契約につきましては、貴殿は借主の債務一切について連帯保証をしていただいております。
記(契約内容)
契約締結日
貸主:○○ 借主:○○
・・・記載例省略・・・(物件所在・名称・契約期間・賃料を記載)
この度、2020年6月1日、貸主・借主間で上記賃貸借契約を契約期間2年で合意更新いたしました。連帯保証人たる貴殿は本件賃貸借契約が終了し、借主が建物を明け渡した上ですべての精算が終了するまで連帯保証人としての責任が継続しますので、念のため本書によりご連絡致します。