2020年4月1日以前に締結された普通借家契約の更新と改正民法の適用
改正民法施行前である2018年6月1日に締結した契約期間2年の普通借家契約について、2020年6月1日付で合意更新をして、借主から更新料の支払を受ける予定です。
更新前の契約には、2020年4月1日の改正民法施行前の民法が適用されていましたが、更新後の契約に適用されるのは、改正後の民法なのでしょうか?それとも、改正前の民法なのでしょうか?
- 2020年4月1日以降に普通借家契約が合意により更新された場合は、それ以降は改正民法が適用されます。
- ある契約について、改正前の民法が適用されるのか、改正後の民法が適用されるのかの判断基準は、原則として、改正民法が施行される前に成立した契約か、改正民法施行後に成立した契約か、契約成立の時期で判断します。
- つまり、その契約が、改正民法施行前に締結された契約であれば、改正前の民法が適用され、改正民法施行後に締結された契約であれば、改正後の民法が適用されることになります。
- しかし、普通借家契約が更新された場合には、更新後の契約は、過去成立した契約について、期間が新たに設定されただけであって、更新の際に新たな契約が成立するわけではなく、契約自体は同一性をもって継続しているものと考えられるます。
- そのため、改正民法施行後に更新された場合も、引き続き改正前の民法が適用されるのではないかとの疑問が生じます。
- 法務省の見解によれば、改正民法施行前に成立した普通借家契約が、改正民法施行後、つまり、2020年4月1日以降に契約期間が満了し、合意更新された場合には、更新後の契約には、改正民法が適用されるとのことです。その理由は、契約を合意更新する当事者は、更新後の契約については、更新時に施行されている法律が適用されるものと予測しているから等と説明されています。
- なお、契約書に自動更新の特約がある場合に、改正民法施行後に自動更新された契約については、合意による更新と同様に、改正民法が適用されます。これは、特約は合意の内容を示したものであるから、特約による更新は合意による更新と変わらないという考え方によるものです。
また、法定更新による期間の定めのない契約になる場合には、合意による更新ではないので、法定更新後の契約には、改正前の民法が適用されます。 - 合意更新後の契約には改正民法が適用されるとの考え方には疑問が残るものの、実務上は、法務省の立法担当者の見解にしたがって、合意更新後の契約に改正民法が適用されることを前提として対応するのが無難です。
- ただし、合意更新後の普通借家契約に改正民法が適用されることによる実務への影響は、貸主・借主間の関係については、さほど大きくありません。
- 例えば、建物やその設備の一部の使用に支障が生じた場合に賃料が当然減額される点(民法611条)や、借主が建物を自ら修繕できる場合(民法607条の2)等、一般的な賃貸借契約書では、あまり特約による定めがない点については、改正民法が適用されることで、従来の考え方と変更される点はあるものの、具体的な事案の解決にあたっての大きな影響はないものと考えてよいでしょう。
- ただし、更新時の個人の連帯保証人に関する取扱いについては、慎重な対応が必要です。「更新契約書に個人の連帯保証人が署名・押印することの問題点」のQ&Aも併せてご参照ください。